きりしま食の道10カ条ブログ

-8- 人と人、人と食をつなぎ創り出す新しい日常

この地に生きる人の声に耳を傾ける
「もう一つの道」

遠くにあるもの、多くの人間が集まる場所が輝き、そこで競い勝つこと、人より優れていることで「幸せ」と感じる人の心理。

霧島でも、もっと効率よく、もっと便利にと都市化をめざし、この地に生きる人たちが連綿と紡いできた「在来の文化」は軽んじられ、特にその地域独自の生活文化・食文化は失われつつある。この地に生まれた子どもも都市社会の一員となるべく、経済発展をめざす道への教育を受けてきた。

しかし、時代は行き詰まり、都会も農村も家庭や個人も孤立し、その地で生きる喜びを感じにくくなった。失ったものは取り戻すことはできないが、もう一度自分の足元にあるものを見つめなおすことはできないか。改めて丁寧に見つめることで、「もう一つの道」を探していきたい。

このブログでは生きる源である食を中心に置き、「きりしま食の道10カ条」のテーマごとに、霧島に生きる人々の声に耳を傾け、その学びの中から、今を生きる私たちの拠りどころを見つけていきたい。


今回は、「きりしま食の道10カ条」の第8条である「ワクワクする新しい食の創造にチャレンジできる霧島をつくろう」をテーマに考える。
【目次】
・インタビュー 「人と人、人と食をつなぎ創り出す新しい日常」 宮之原優聖さん
・霧島の食と器 「宮之原さんの「かしわ」(鶏と野菜の煮つけ)」


きりしま食の道 第8条
−ワクワクする新しい食の創造にチャレンジできる霧島をつくろう−

「人と人、人と食をつなぎ創り出す新しい日常」
     宮之原 優聖さん

取材・文・料理  千葉しのぶ

地元学を提唱した民俗研究家結城登美雄氏は著書の中で、わがまちに誇れるものは何もないと「ないものねだり」の愚痴をこぼすより、暮らしの現場の足元の「あるもの探し」をしてみようと呼びかけている。さらに、自分でそれをやろうとしない人間が考えた計画や事業は、それがどれほど実(まこと)しやかで立派に見えても、暮らしの現場を説得することはできないが、そうしようと決めた人々の行動には人を納得させるものがある、とも。
霧島で展開されているある取り組みは、まさに「そうしよう」と決めた人々の行動だ。そして、そこに新たな可能性を感じている。

日常に輝きを与えるイベント

2019年4月ゴールデンウィークの一日、霧島市内を流れる天降川の河川敷に突如現れた一日限りの不思議な空間で数時間過ごした。その名も「霧島ガーデンプレイス」。駐車場から少し高くなった堤防を歩き会場に進むと、たくさんの色とりどりのテントが立ち並んでいるのが見え、だんだんに人々のざわめきが近くなっていく。そこに何があるのかと心躍る。
会場内は、ガーランドが張り巡らされ、おしゃれな雰囲気のマルシェ。地元の若き農家さんが作ったこだわりの野菜、果物、素材の味が伝わる手作りのお菓子、霧島産素材で作られた調味料や香辛料が並ぶ。霧島産小麦を使ったパン、普段の食卓を楽しくさせるような食器、着心地のよさそうな服、手作りのアクセサリーと、どれも作り手の思いが伝わるものばかり。会場のあちこちには、家族連れや、友人同士、思い思いにゆったりと飲み物やランチを囲んでいるのも見える。
売り手もお客さんとおしゃべりしながら、それを楽しむように笑顔があふれている。肩に力を入れすぎず思い思いに過ごす時間の中で、お互いが適度な距離感をもち、それぞれのペースで自分たちの時間を楽しんでいる。

霧島での日常の暮らしに、輝きを与え、さっとさわやかな風を巻き起こしてくれたようなイベントだった。
そして、このイベントの中心人物が宮之原優聖さん。宮之原さんは、市役所職員の仲間と共にこの「霧島ガーデンプレイス」を主催している。

大自然の摂理に導かれて

あの心躍るような感覚を思い出しつつ、霧島市役所に宮之原さんを訪ねた。

宮之原さんは薩摩川内市出身。子どものころの遊び場は近くの田んぼや川。魚釣りや、竹など使って秘密基地作るのも好き。スポーツも得意で小学校4年より始めたバスケットボールは高校進学後も続け、九州大会にも出場するほど。
一方、中学生より気象といった地学に興味を持ちはじめ、進学した鹿児島大学では理学部地球環境科学科に在籍。地質学や地形学といった基礎科学を学び研究する中で、今まで見ていたまちの風景に大地の動きという時間が加えられたという。与論島や屋久島、奄美大島などを訪れ、鹿児島県の地理的特性や生物多様性について知るとともに、自然災害と呼ばれるような土砂崩れや地震、火山噴火という自然現象についても、これまで地球上で起こってきた動きの一部であり、その結果今の風景があることを学んだ。

そして大学院に進み、南九州特有のシラス台地の地形についての研究を行ううちに、今そこに存在する人々の営みにも興味を持つようになった。

欲しいものは自分たちで創る

そんな中、将来の仕事を考えたとき「なりたいと思う仕事は無かった」と宮之原さんは振り返る。
霧島市役所への就職のきっかけはふとしたことから。鹿児島中央駅構内に掲示してあった霧島市全景の航空写真パネルを見て、こんな2つの火山に挟まれたまちが他にあるのか、と衝撃を受けた。そこから霧島市で暮らしている人々が、防災や文化・教育の面でどのように火山と折り合いをつけ、活用し、暮らしているか強い興味を持ったという。

霧島市役所に入庁後、霧島ジオパーク推進課を経て、商工振興課に。霧島市主催のイベントの運営にもかかわるが、イベントの開催が目的化していたり、公平性の確保が重要視されるなど行政ならではの壁にもぶつかる。徐々に「もっと人の暮らしに寄り添った取り組み、自分たちの持てる力で自分たちがあったら嬉しいと思う空間を創りだせないか」という思いが強くなった。それを共にかなえたのが、職場で同じ年だった「平成元年会」の中の4人。その思いの結晶が「霧島ガーデンプレイス」だ。

「平成元年会」左より、宮之原さん、勘場さん、徳丸さん、岩下さん

今あるものに光を当て新たな価値を

2017年、第1回を隼人塚史跡公園で開催。「芝生の公園にテーブルや椅子を置いただけなのに霧島が面白く見えてきた」と宮之原さん。30の出店に予想をはるかに超える3000人の来場者があった。この時、青空レストランのウェイターとして参加した市内の高校生はその後も霧島ガーデンプレイスの常連になっていった。宮之原さんは、「やることが目的ではなく、人と人とが関わり合いを持つこと」「いまあるものに光を当て新しい価値を創造すること」が大切だと感じ、さらに継続する重要性を強く感じたという。2019年まで5回の開催を経て、出店数104、8,750人の来場者を誇るマルシェとなった。

霧島ガーデンプレイスの魅力を、宮之原さんは「霧島地域を中心とした職人たちのサービスを一度に楽しめること」「商品の裏側にある想いと、接客を通した繋がりを楽しんでもらいたいと」と語る。

まちなかで霧島をおいしく食べる日常を

今後さらに取り組みたいのは、これからのまちづくりの中心となる人を支えることだという。
「まちなかの街路灯や防犯カメラは、安心して歩けるまちのために商店の方々が維持管理しています。しかし、新しくお店をまちなかで出したいという方々が減っていて、維持管理も難しくなっています。」商店街に増える空き店舗をいかに活用するか、新たな創業支援をどのように進めるか、歩いて楽しい都市空間にするには、など課題は山積。

しかし、「大切なのは、こうなったらいいなと思うことに楽しみながら挑戦すること。そして、行政だけではできないことを民間の方々と力を合わせてやること。そうすれば課題解決の可能性は広がる。この地に生きる人々と一緒に一人の当事者として、自分の暮らしや地域を見つめたい」と宮之原さん。その中で「霧島の暮らしの質を高めていきたい。霧島で作られたものを、まちなかでおいしく食べられる暮らしを作り出せたらいいですね」。目指すのは「フレキシブルな公務員」と笑った。

こくぶ通り会連合会の代表を務める池田隆さんと

宮之原さんの道

宮之原さんは、この地に生きる人々の声に耳を傾け常に寄り添っている。生きる土台を食として、ここに暮らす人々のために何をすべきかを考え、この地域への思いや考えを持ち寄る場を作っている。
どんな状況になろうとも、地域の明日を創るのは、その地に生きる人々。宮之原さんは、地域への「願い」と「問い」を常に持ち続け、同じ思いを持つ仲間と、実践の道を歩んでいる。
宮之原さんの選んだ道は「霧島の人と人、人と食をつなぎ、新しい日常を創りだす道」だと思う。


霧島の食と器

宮之原さんの「かしわ」(鶏と野菜の煮つけ)

宮之原さんの好きな料理は父方の祖母がつくった「かしわ」とよんでいた「鶏と野菜の煮つけ」。正月にふるまわれ鶏の味が野菜にじゅわっと染みる思い出の味。白土焼(しらつちやき)の還元焼きの器に盛った。白土焼は霧島市霧島田口にある窯元。窯主成枝伸一郎氏による釉薬の流れに霧島の自然を表現した器は、盛り付けられたさまざまな食材と調和する。
 

材料(4人分)

鶏ぶつ切り(骨付き) 400g
大根 500g
人参 150g
ごぼう 100g
干しいたけ  4枚
こんにゃく 100g、塩少々
厚揚げ 100g
油  大さじ2
調味料(うす口醤油・本みりん 各大さじ5)
さやいんげん 4本 塩少々

作り方

  1. 干しシイタケは水で戻し、軸を除く。
  2. 大根、人参は大ぶりに切り、ごぼうは乱切りに、しいたけは2等分にする。こんにゃくは手でひと口大にちぎり塩もみし水で洗う。厚揚げは食べやすい大きさに切る。
  3. 鍋に油をひき、鶏ぶつ切りを焼き、表面に軽く焦げ目をつける。②を加え大きくまぜ、全体に油が回ったら、しいたけの戻し汁を加えさらにひたひたになるくらいに水を足す。
  4. ③に調味料を加え、途中でアクを除きながら、具材が柔らかくなり、汁気が少し残る位まで煮るさやいんげんは塩少々を入れた少量の湯で、さっと茹でてザルにあけ、食べやすい大きさに切る。
  5. 器に④を盛りつけ、さやいんげんを添える。

 


霧島 白土焼 
代表 成枝伸一郎
〒899-4201 鹿児島県霧島市霧島 田口137
電話・FAX 0995-57-1456

取材・文・料理
千葉しのぶ
NPO法人霧島食育研究会理事長、「植え方から食べ方まで」を実践する霧島里山自然学校、郷土料理伝承教室、「霧島・食の文化祭」を開催。鹿児島女子短期大学准教授を経て令和2年「千葉しのぶ鹿児島食文化スタジオ」を設立。管理栄養士

撮影
吉国明彦・吉国あかね(エンガワスタジオ)

※霧島ガーデンプレイスの写真は「霧島ガーデンプレイスホームページ」より掲載
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