インタビュー

感謝と思いやりの心が育む 「霧島の食文化」

神様に寄り添った霧島ならではの食の魅力

風に揺れる稲穂、季節の野菜がたわわに実る畑。霧島では市街地から車を少し走らせるだけで、贅沢とさえ思えるほど美しく、実り豊かな田園風景が至る所に広がっています。

田んぼのあぜ道にちょこんと立つ“田の神さぁ”。きれいに磨かれ、花で飾られた田の神さぁは、冬は山の神、春は里に下りて田を守る神として、地元の人たちから大切にされています。

神話が息づく霧島の地では、農耕に関する伝統行事がいろいろな場所で行われます。田植えのあとに神様を送る宴の「さ上(のぼ)り」、五穀豊穣を祝って新しい穀物をお供えする「新嘗祭」。

常に自分たちを見守ってくれる神様への感謝の心は、食べる人への思いやりとなって、霧島で暮らす人たちの食に息づいています。

霧島の女性たちが受け継いできた豊かな料理

おもてなしの心にあふれた郷土料理、家族への愛情によって磨かれた家庭料理。身近な食材を大事に使って、食べる人のことを考えて作られてきた料理は、霧島の女性たちによって世代を超えて受け継がれてきました。「霧島の食の魅力は食べ物を作る現場が近くにあること。畑で採れた野菜や料理をお裾分けし合いながら、人の喜びを自分の喜びにする、霧島の人の優しさを食に感じます」。そう語るのは、『NPO法人 霧島食育研究会』理事長の千葉しのぶさんです。

地元のおばあちゃんたちを先生に、霧島の食にまつわる生きた経験を学んだり、田んぼや畑でお米や大豆を育てながら、食べ物の源について知ること。千葉さんはさまざまな食育活動を通して、霧島の食を大切にする文化をたくさんの人に伝えています。

大切な人へのおもてなしの心

鹿児島には季節の行事やお客さまのおもてなしに、家で飼っていた鶏をさばいて調理する食文化がありました。

霧島の郷土料理「そばずい」もその一つです。そばと野菜を煮込むだしに使われる鶏肉。新鮮で柔らかな部分は刺し身に、それ以外は具材として余すところなく料理に使います。

旨味がぎゅっと詰まっただし、滋味あふれる鶏肉、季節の野菜、打ちたての田舎そば。そこには、料理を囲んでみんなでにぎやかに過ごす、あたたかな食の風景があります。

「郷土料理は特別なものではなく、普通の家庭で作られてきたものばかりです。長い年月をかけ、家族とのやり取りの中で磨かれた、その家ならではの『美味しい』の技を次の世代に伝えること。それが霧島の食文化を育むことにつながります」と千葉さんは言います。

霧島の食=霧島人の素晴らしさ

霧島の食文化を伝える活動として、霧島食育研究会が毎年11月に霧島市で開催する『霧島・食の文化祭』。中でも、参加者が1品ずつ料理を持ち寄る『家庭料理大集合』では、毎年150品の料理が集まります。

 

おにぎりや煮物、おやつ。同じ料理でも作る人や家庭によって、料理法や味が少しずつ違います。料理の一つ一つにある家族の物語。おばあちゃんからお母さん、そして、子どもたちへ。それぞれのエピソードと共に紡がれる、食の記憶を受け継ぐレシピ集は、霧島で暮らす人の食への思いがあふれています。

「霧島にはまだまだ知らない食の宝がたくさんあります。霧島を訪れた人や、地元の人たちが気軽に食について学べる拠点を作ること。食を通して、霧島で暮らす人の素晴らしさも伝えたい」。

緑の木陰が気持ち良い場所でおやつに出されたのは、霧島市横川町発祥の黒糖菓子「げたんは」。そして、地元の窯で焼かれたマグカップには、爽やかな緑色が美しい霧島茶が注がれていました。

その土地に実際に出掛け、その土地でできた食材を、その土地で作った人と一緒に食べること。地域を丸ごと味わう「霧島ガストロノミー」の心に触れることができました。

 

NPO法人 霧島食育研究会

2004年、霧島市で「霧島で霧島の食育」を目指して発足。「学ぶ」「創る」「耕す」「つながる」をテーマに、食を大切にする文化を育む活動を行っています。「霧島食べもの伝承塾」や「かごしま郷土料理マイスター講座」、「霧島里山自然学校」など、子どもから大人まで食について学べるカリキュラムがたくさんあります。地元の高齢者を先生に、14名のスタッフと活動中。
http://kirisyoku.com/
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