豊富な素材を生かす「人の技」
食材に新しい輝きをもたらすシェフの技
「どうぞお召し上がりください」。磨き込まれたテーブルの上に置かれた皿には、美しく盛られた料理が並んでいます。
艶やかなソースをまとった魚、みずみずしいベビーリーフ、個性的な葉と可憐なつぼみの山菜。自然と人の手によって育まれた食材に、料理という魔法で新しい輝きをもたらすシェフの技。食べて味わうことはもちろん、その地域や生産者、料理人に思いをはせることで、皿の上に広がる世界は無限に広がります。
食べるためではなく、楽しむために食べることで、心はもっと豊かになります。食の豊かな地域は、人も、人の心も豊かです。山、川、海に彩られた食材の宝庫である霧島は、食によって人の心を豊かにする魅力にあふれています。
霧島の食材を見極める力
「霧島の食材は質が高く、種類も豊富。自然環境への人への手の入り方が、ヨーロッパをほうふつとさせます」。そう話すのは、天孫降臨の地・高千穂峰の麓にある『オーベルジュ 異人館』でオーナーシェフを務める金澤智玲さんです。
ガストロノミーの本場・ヨーロッパで料理の技を磨き、ポルトガル公邸料理人も務めた金澤さん。懐石料理をモチーフとしたジャンルを問わないフレンチのオーナーシェフとして、25年にも渡りポルトガルの料理界をけん引してきました。
本場のガストロノミーを知る金澤さんが、霧島の地を選んだ理由。それは圧倒的な素材力でした。霧島山から湧き出る水で育まれた農産物、日本屈指のレベルを誇る畜産物、さらには、錦江湾をはじめ、豊かな魚種を誇る漁港に近いこと。「素材は鮮度や種類を考え、生産者に近い場所で」と考える金澤さん。その思いにぴったりと重なったのが霧島でした。
生産者×素材×霧島に触発されるメニュー
素材の味はもちろん、焼き加減、食べる温度、料理を出すタイミングなど、金澤さんの頭の中には、素材についての膨大なデータが蓄積されています。
「料理はまず、素材ありき。素材を知らなければ料理はできません」と言います。金澤さんは料理を左右する素材選びの基準に「人」を挙げます。「生産者の食材への向き合い方、熱い思いを知ることで、さらに美味しく料理したいという思いが膨らみます。霧島に来てから作りたいものがあふれて止まりません」。
生産者や素材、霧島の自然に触発されて考えるメニューは、気候にも大きく影響されます。台風時期はしけを予想して深海魚にしたり、野菜の生育が伸びない雨の時期は山菜を用いることもあります。「それができるのも霧島だからこそ」と金澤さんは言います。
あたたかなおもてなしも大切な「人の技」
独創的かつ自由な発想で食材を組み合わせ、さらに美味しく、そして、美しい料理へと高める金澤さんの技。それを支えているのは、妻でパテシェの香代さんと、娘でソムリエールの櫻さんです。
金澤さんの料理をイメージして作るシンプルで食べやすいデザート、料理や一緒に食事を楽しむ人を考えながら選ぶワイン。『オーベルジュ異人館』は金澤家のあたたかな雰囲気も魅力の一つです。
森の木立ちに佇む白い洋館の建物。扉を開けると、フロントでは二人が笑顔で出迎えてくれます。到着から出発まで、夕食以外は時間の仕切りがなく、霧島の豊かな自然の中で流れる緩やかな時間。
野鳥のさえずりをBGMにテラスでお茶を楽しんだり、時にはシカがふらりと遊びに来ることもあります。霧島ならではの火山の恵みを受ける源泉掛け流しの温泉に入りながら、夜は満天の星空に酔いしれるひととき。
食の近くに寄り添う霧島の自然も、おもてなしという人の技でさらに磨かれていきます。
オーベルジュ 異人館