コラム

霧島山から湧き出る「水」

神話に彩られた「水」の物語

神話の時代、高天原から降り立った神々が見たのは、深い霧に包まれた世界でした。天上の神へ祈りを捧げ、携えた数多の稲穂で霧を振り払うと、そこに現れたのは気高く美しい山々。それが、“霧に煙る海に浮かぶ島々”を由来とする霧島山の姿でした。

長い年月の火山活動によって生まれた霧島山は、最高峰の韓国岳(標高1,700m)、天孫降臨の地・高千穂峰(標高1,574m)をはじめ、1,000mを超える山々が連なります。

天空に向かって壁のようにそびえ立つ、霧島山に当たった南からの湿った風は、深い霧を作り、雲からたくさんの雨を地上へと降らせます。霧島山の水が豊かだといわれる理由の一つです。

 

火山によって磨かれた水

霧島山にあるえびの高原(標高1,200mでは、年間雨量が8,000mmを超えることがあります。天から降り注いだ雨は、霧島山にゆっくりと染み込みんでいきます。

実は霧島山には“天然のフィルター”が存在します。約34万年前の加久藤カルデラの大噴火をはじめ、いくつもの噴火によって火山灰や軽石、溶岩が堆積してできた霧島山の地層。すき間が多く、水が染み込みやすい火山の地層は、まさに天然のフィルターなのです。

長い年月をかけてろ過されながら、大地のミネラル成分をたっぷり含んだ水。地元の人は誇らしげに言います。「たくさんの雨水を蓄えた霧島山は、大きな水がめのようなもの。そこから湧き出す水は、火山、そして、シラス台地によって磨かれた水なんです」。

水が生み出す自然のドラマ

霧島山によって磨かれた水を求めて、小さな旅へと出掛けてみました。

森の奥深く、岩肌から染み出すように湧き出る水。溶岩でできた崖の割れ目から、時には滴のようにやさしく、時には力強い音を響かせる滝。濃い緑の木々の間を縫うようにして緩やかに流れる川では、小魚が群れを成して泳ぎます。

水の作用によって川床に穴が空く、自然の造形美に目を奪われる甌穴群。河岸では野鳥が羽根を休め、みずみずしいクレソンやミツバが気持ち良さげに揺れています。霧島には水を豊かに、そして身近に感じる場所がたくさんあります。

道路脇で水が湧き出る場所を見つけました。艶やかに濡れたシダやコケが美しい場所。澄んだ水に手のひらをそっと差し出すと、そこには汚れのない水が満たされていました。口にそっと含んでみると、まるみを帯びたやさしい味。それは霧島山によって磨かれた、霧島からの贈り物です。

霧島の水の道は食の道

霧島山によって磨かれた水は、森を育み、川となって、やがて海へとたどり着きます。韓国岳の1,700mから、錦江湾の海抜0mまでつなぐ“水の道”は、まさに霧島の“食の道”。

霧島山を見渡す場所には美しい茶畑が広がり、養殖の霧島サーモンが澄んだ湧水で健やかに育ちます。収穫の時期には黄金色の稲穂が揺れ、畑には四季折々の野菜や大豆がたわわに実ります。

 

和牛日本一の称号を持つ鹿児島黒牛、鹿児島を代表する黒豚や黒さつま鶏、霧島が誇る焼酎や黒酢。アサリや車海老、ブリが養殖され、多種多様な天然の魚介類が獲れる豊穣の海。山も森も川も海も、水と大地によってつながっていることを、食材が教えてくれます。

霧島の食を育む水。霧島ガストロノミーの物語は大地から湧き出る「水」から始まります。

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